情報共有をしない奴は何故アホなのか?
前回のエントリーで、「情報共有の重要さを理解できない奴はアホだ」と書いた。何故アホなのか?
<追記>
コメント欄で指摘されましたが、「情報を共有しない奴はアホか?」というのは表現として不適説でした。正確には共有しない事が悪いのではなく、「共有しないほうが得だと考え、意図的に情報を隠している奴は何故アホか?」ですね。 ここは素直にゴメンナサイです。
「共有か?抜け駆か?」という話では、往々にしてゲーム理論や囚人のジレンマが引用される。だが、この囚人のジレンマは、実のところ机上の空論だったりする。それはなぜか。
なぜ囚人のジレンマは机上の空論か?
囚人のジレンマには幾つかの成立条件がある。
その1つは、「プレイヤー間での情報交換や、強制力のある合意を形成できない環境」というものだ。つまり、情報交換ができるプレイヤーが多数存在する時点で、囚人のジレンマを持ちいた説明には意味がない。
プレイヤー間での合意が成立する場合、とりうる最善手は「同盟を組んで巨大なグループを作り、傘下に入らないグループを殲滅する」である。 コスト的にはこれが最も合理的である。 この場合引き合いに出すべきは、囚人のジレンマではない。ランチェスターの二次法則だ。
ランチェスターの二次法則
この法則の細かい説明はwikipediaにまかせる。 結論だけ述べると以下の通りとなる。即ち、「1対1の戦闘を10回するよりも、10対1の虐殺を10回するほうが楽である」ということだ。
プレイヤーの数が多く規模が小さいほど、戦力の差は決定的になる。プレイヤーが小粒なiPhone市場では、比較的簡単にランチェスターの法則が有利に働く盤面を作れるはずだ。
市場規模が同盟戦略に合理性を与える
iPhone1台あたり平均有料アプリ数が5個、その平均価格が350円、世界でiPhone+touchが3000万台としよう。 touchがゲーム用と認識された現在、大分少なめの見積もりである。この場合、世界のアプリケーションの売り上げは525億である。 プレイヤーの取り分は70%の367億。年商1億のプレイヤーが367社存在できる規模なわけだ。
これだけの規模がある場合、同盟により海外プレイヤーを出し抜けるのならば、国内プレイヤー同士で競争する意味はない。 市場が十分に大きければ、お互いに潰しあうことなく目標利益を達成できるからだ。ゆえに、まず行うべきは複数のプレイヤーの基礎ノウハウを束ねし、技術競争において海外の単独プレイヤーが追いつくことのできない状況を作り出すことだ。
売り上げ目標が数億程度でよいのならば、5社ぐらいで結託し、弱小ライバルを圧倒的な基礎開発力で蹂躙するほうが効率がよいわけだ。
日本語の壁
さらに、このランチェスターの法則が我々に有利に働く最大の要員の1つが、日本語という壁である。 通常IT市場全般において日本語はデメリットとなる。海外リソースへのアクセスが難しく、国際化のコストとノウハウ開発がかかる為である。
しかし上記2つの問題点は、同盟により国内リソースを共通化することでカバーできる。 そして逆にメリットも存在する。
メリットとは日本で開発されたノウハウは、国内限定で共有できるということである。 つまり、国内で情報を共有し、海外勢力に対抗するという戦略をとる場合に限り、日本語はデメリットではないのだ。 日本という国土が小さく言語が統一されている為、連携がとりやすいことも有利に働いている。
英語の場合、情報共有をしようとすれば全てのプレイヤーに対し情報がオープンになってしまう。また、全ての英語プレイヤーが同盟を組んで他のプレイヤーを殲滅する戦略は、英語がマジョリティである為成立しない。 非英語プレイヤーを排除しても、英語プレイヤーの数が多すぎる為に、同盟の旨みがないのである。
つまり日本のプレイヤーは大連合戦略をとることはできるが、英語プレイヤーはこの戦略をとることができない。この点が、ランチェスターの二次法則が有利に働く要員となっている。
結論
以上のような考察から、僕は海外市場を狙うべきだし、その場合は同盟を結成するべきであると考えている。
逆にもし、「市場が十分に大きくて、プレイヤーが十分に小さい」という状況下で、裏切りを選択することで利益の最大化を狙える戦略があるぜ!!という人は提示してもらいたい。本当にあるならばスゴイ興味がある。
つぶやき
ここでは情報を共有するのが合理的であるということを説明する為に、iPhoneアプリ開発を純粋に戦争として扱っている。孫子、呉子、クラウゼビッツの戦争論がベースとなっている。
「我れは専まりて一と為り敵は分かれて十と為らば、是れ十を以て其の一を攻むるなり。」 by 孫子
「和して、しかる後に大事をなす」 by 呉子
「手元にないので忘れた」 by クラウゼヴィッツ
倫理や道義、程度の問題といったことは、情報共有の合理性とは関係ない為、ここでは割愛している。 別に本当に海外プレイヤーを皆殺しにしろってわけじゃないので、勘違いしないように。
2009 年 1 月 12 日 8:45 AM
囚人のジレンマが机上の空論なのは情報共有の部分が問題だからじゃないと思う。
基本ルールが特殊だから。
たとえば十人の囚人のうち9人が完全にカルテルを組んでも事態は改善しない。
あのルールでは残りの一人を出し抜く方法はない。
また、この局面で問題にされる情報というのは、どういう行動をとるかというものだけであって、「うちのかみさんの実家はよ」といった話は含まれない。情報という多義的な言葉を、途中で違う文脈にあわせて使っているように思われる。
「みんなで力をあわせようね」という意味のことがいいたいなら、論理展開が不適切。
囚人のジレンマの文脈だと、「いいか最低価格は1200円だぞ。安い値段つけたり値下げはナシだ。そうすりゃみんなウハウハなんだから」ってのが情報共有による勝ち方なんだけど、そういうことしたいわけじゃないんでしょ?
ランチェスターの二次法則のほうも、直接叩き合えるなら成り立つけど、勝ち負けが違う基準なんでどれほど意味があるのか。
たとえば、1000人の画家で共同制作したとして、1人の画家の絵に絶対に負けるはずがないかというとそんな保証はない。どっちかというとこっちの基準じゃね?
素直に毛利元就あたりを出したほうがわかりやすかったんじゃないかな。
2009 年 1 月 12 日 11:04 AM
情報共有者を募るために、情報共有していない者を「アホ」呼ばわりするのはいかがなものか?
釣りにしても酷すぎる。見損なったよ。
2009 年 1 月 12 日 2:18 PM
この場合『日本語の壁』ではなくて日本人目線でいう『英語の壁』だと思うけど、勝手に壁を作ってその中の狭い世界でこんなことやってる暇があったら英語勉強して世界中と情報共有していった方がよっぽどマシだと思うよ。
>裏切りを選択することで利益の最大化を狙える戦略があるぜ!!という人は提示してもらいたい
私たちのチームは皆日本人ですが英語ができるので、海外から情報を頑張って集めて利益の最大化のために努力しています。
私たちは裏切り者にあたるのかな。
そもそも何をどうすると誰を裏切るの?
情報共有するのもしないのも自由だけど、それをこうやって(しない奴はアホとか言って)押し付けるのはよくないよ。
あなたがいう「情報を共有しない奴」ってのはどういう人のことだろう?
あなたの目の前でお話するか、わざわざブログに書いてあなたの目に触れないと、共有してない=アホってこと?
同盟を作りたいなら作ればいいのに、こうやってネットでうだうだと御託を並べる意味が分からない。
2009 年 1 月 12 日 2:32 PM
@とある開発者よりさん
僕は普通に英語の読み書きも会話もできるので、海外で勝手に動いてますよ。
多分この文意での「裏切り」は、他人が共有情報する情報を集めながら、自分の持つ情報は隠蔽する戦略のことですね。裏切りというのは、これは道徳的な意味の裏切りじゃなくて、ゲームにおける選択肢の便宜的な呼称としての「裏切り」です。
別にだますわけでも卑怯なわけでもないですよ。 自分がその戦略を正しいと思って実行している人は胸をはってやればいいんじゃないかと。
>同盟を作りたいなら作ればいいのに、こうやってネットでうだうだと御託を並べる意味が分からない。
多分、あなたがスルーできずコメントしてしまったのと同じような理由だと思います。
2009 年 1 月 12 日 2:34 PM
@アホさん
タイトルは指摘どおり、ちょっと恣意的だったので注釈をいれました。不快でしたらゴメンナサイ。
@blastyさん
ちょっと考えをまとめるのでお待ちアレ。
2009 年 1 月 12 日 2:40 PM
みんなでノウハウを共有しようよ!という呼びかけ自体は、正しい事でもの凄くよく分かります。
ですが、リジェクトの事例等は、日本語で情報共有する事で海外勢を出し抜けるかもしれませんが、ソースコードは、アプリケーションという形でアウトプットが明示されてしまう以上、日本語による利点というものは、かなり薄れてしまうのではないでしょうか?
企業体を含めた、一定の組織の中での「一応」クローズドな情報として、ソースコードを含めたノウハウを共有しようというのであれば、有効だとは思うのですが、きっとそういう事でもないでしょう。
なので、アホさんがご指摘されている敵を作りやすい言い回しだったり、肝心の「じゃあ、何をどう日本人の皆で共有して、戦うのか?」のある程度具体的な行動の部分がボヤけてしまっていることで、せっかく主旨自体には賛同できても、行動を起こしてもらうどころか、逆に反感を買ってしまうような気がします。
私も人の事を偉そうに意見が言える立場ではありませんが、高圧的な煽るような攻め方よりも、少し余裕のある対応・呼びかけをしていかないと、日本人だからとかではなく、どんな人でもなかなか心は動かないと思います。
2009 年 1 月 12 日 2:57 PM
@カズさん
カズさんのご指摘は前面的に正しいと思います。
ソースコードはドキュメントとサンプルが日本語である限り、そう簡単には流出しないとは思いますが。
僕はあくまで、問題提示の為の装置として機能すればよいので、情報公開派の中心に僕がいる必要はないと思ってます。
どちらかというと、現状では多少ウチのブログが炎上しても、そういう考え方があると認知を広めるほうが、トータルでメリットは高いと考えています。
急に文体変えて攻撃的にかけば、静観してる人や、情報公開したくない人たちの意見もちっとは出るかと思ったのですが、そういうわけでもないのがちょっと残念です。
2009 年 1 月 12 日 8:53 PM
言語の壁を利用して、国内限定で情報共有するというのは
世界から見ると裏切りですよね?
特定の集団の利益最大化が目的なら、
ほどよい規模で組織化し情報共有し、ただし外部に漏らさず
外部の情報も利用するのがベストな気がしますが、考えてること同じでしょうか?
その場合、日本同盟より特定企業が強かったりはすると思います。
共有することのメリットは十分わかりますが
公開しない人にとって公開しないことによるデメリットが
思い浮かばないのですが何かありますかね。
でも、情報共有うんぬんは開発過程における話なので
本当に売れるかどうかは商品そのもの次第なわけですが。
2009 年 1 月 12 日 9:05 PM
fukusukeさん
そうです。世界単位でみれば、戦略としては「裏切り」になりますね。 またエントリとは逆ですが、協力しビッグプレイヤーとして影響力を高めた後に「協調」戦略をとることも可能です。
>ほどよい規模で組織化し情報共有し、ただし外部に漏らさず外部の情報も利用するのがベストな気がしますが、考えてること同じでしょうか?
だいたい同じです。しかしiPhoneアプリのリスクは高いので、企業内情報共有程度では、十分にそれにリスクヘッジできるだけの予算と人員を捻出できるとは思えません。
共有することのメリットを享受できなければ、機会損失が発生するわけですよね。それはデメリットなのでは? 共有するメンバーでブランドを作る、半共有を採用しメンバー間で情報交換を行い、パブリックへの共有にはタイムラグを設ける・・・ やりようはいかほどにもあるかと。
>でも、情報共有うんぬんは開発過程における話なので
>本当に売れるかどうかは商品そのもの次第なわけですが。
これは当然でしょう。ただリスクを極限まで下げれば下げるほど、商品以外のファクターでの事故が減るのには変わらないと思います。
2009 年 1 月 12 日 9:43 PM
> 公開しない人にとって公開しないことによるデメリットが
上記、一方的に情報仕入れるだけで自分の情報は提供はしない人はどうなんだろう、という意味でした。
言葉足らずですみません。
国内で共有というので、即パブリックが前提かと思い込んでしまいましたが、
まず提供しないと共有の輪に入れないなど、クローズドな情報共有ということなら納得です。
2009 年 1 月 12 日 11:46 PM
[...] fladdict» ブログアーカイブ » 情報共有をしない奴は何故アホなのか? [...]
2009 年 1 月 13 日 9:17 AM
>fukusukesaさん
いえいえ、僕も結構乱文なので気にしないでください。
最終的には国際レベルでの「協調」戦略が望ましいのは理想なのですが、僕はどっちかというとリアリストなので善意だけでそこに到達できるとは思えないのですよね。
最低限、海外プレイヤーど同格の影響力を手に入れられなければ、海外での「協調」戦略は難しいと思います。 その為に前段階として、国内のみの協調をするのは現実的なのではないかと思うわけです。
もちろん全員が協調する必要はありません。 極論、海外プレイヤーと同レベルでやり取りができるサイズでいいので、興味のない人は別に無理に組み込む必要はないかと思います。
2009 年 1 月 14 日 6:51 PM
面白そうな話題ですね。前回のエントリですと、開発者全員で情報を共有してアップルの不条理なリジェクトに対抗しようという話かと思ったのですが、このエントリの趣旨はそうではないですよね?fukusukeさんおご指摘とかなりかぶってしまいますが。
利己的行動とか最適戦略という進化ゲーム理論的なアイディアを用いた場合、常に最適戦略は自分から情報を出さず、他人の情報を盗むフリーライダー(裏切り者)ですよね。そしてフリーライダーを閉め出すにはある程度監視し合い協調を要求する半閉鎖集団を作る必要があります(生物学の言葉で言えば互恵的利他集団)。
前回のエントリでは完全にオープンな集団(利他集団)で情報共有すべし、と言うことなのかと思いましたが、今回のエントリは互恵的利他集団に所属すべしという趣旨に変わっているように思います。今回のエントリの主張に関しては裏切りは有効ではないけど、前回のエントリではやはり裏切りは有効だと思います。
blastyさんが指摘してらっしゃる通り、ランチェスターの法則は火力で相手の戦力を割くことが相手の火力を逓減させこちらの損害も減るという法則なので、これを経営などに援用してもアナロジーの域は出ません。
実際におなじ企業やチームに属し、直接の競争が無くて相互に監視したり怠惰に罰を与えられるならともかく、緩やかな協力関係で繋がっている場合には(進化)ゲーム理論は有効だと思いますよ。国際レベルであっても、国内レベルであっても完全な協調戦略は完全な運命共同体でしか働かず、じゃあ非運命共同体内でどういう力学が存在するか(個々人の打算が集団をどのような均衡状態に向かわせるか)を明らかにできるわけですから。
打算なんておいといてとりあえず団結しようぜ!という呼びかけなら効果がありそうですが、それは理論や法則と関係が無く、善意や感情に訴える論法ですよね。団結は重要ですが、集団を上手く維持するには集団内部の打算に目を向けないとダメだと思います。